恵信尼は常陸の下妻にある坂井の郷という所で夢を見た。 夢の中で恵信尼は、色も形もない、ただ光ばかりの仏と、もう一体の仏を見る。光ばかりの仏は勢至菩薩の化身、法然上人であり、もう一体は観音菩薩の化身、あなたの夫、善信の御房(親鸞)であると告げられ、うち驚いて夢から覚めた。 恵信尼は法然上人のことのみを親鸞に話し、親鸞を観音菩薩と告げられたことは決して人には言わず、深く胸の内に刻んでいた。 この夢の話は「恵信尼文書」第三通に記されているが、手紙は親鸞の訃報に接して末娘の覚信尼に送ったもので、恵信尼が生涯、親鸞を観音菩薩の化身とみて仕えてきたことを告白している。 恵信尼の、親鸞に対する心情を物語る、重要なエピソードといえよう。 |